たまに休むとろくな目にあわない

今週のお題「リラックス」

 らしいので書いてみることに。

 つい先程、帰宅した。というより、帰宅「できた」という表現のほうが適切だろうか。

 今日は授業も会議もないので、入学説明会などで休日出勤した分の代休をようやく消化することに。(研究日を指定して自宅研究している先生方もいらっしゃるのですが、私は自宅だと仕事が捗らない性質でして、基本大学にいることが多い)

 オフの日は昼前まで惰眠を貪ることもあるが、今日は天気も良く、近所を散歩してからスーパーのパン屋で焼き立てパンでも買って、自宅でリラックスしようと思った。
 仕事に行く妻を見送ったあと、携帯と財布をスウェットのポケットに突っ込み家を出た。「あー、平日休みって幸せだなあ」と喜びを噛み締めながら、時間をかけて近所を散歩してからスーパーへ。「いつも家事を任せっきりで迷惑かけてるし、今日は久々にハンバーグでも作ってやろうか」と思い、夕食の買い物もして家に帰る途中で気付いたのである。鍵がないことに。我が家はオートロックである。

 「大丈夫、朝やし出入りも多いやろ」

 平静を装い、エントランス前で、他の住人の出入りを待つ。しかし、こんな時に限って誰も通りやしない。右手にスーパーの袋、左手にトイレットペーパーを持ち、エントランス前に立ち尽くす私を、向かいの棟の住人が不思議そうな顔で見てくるので、とりあえず笑顔で会釈をする。

 10分ほど経過し、そろそろ次の作戦を考えなくては…と考える。「あ、管理会社に電話しよう。スマホ持って出てよかったわ」と思い電話をするが、時間が早すぎたせいか繋がらない。次に、ポストに投函されていたDMを取り出し、自動ドアの隙間から内側に入れて誤作動を狙うが、全く反応がない。

 「あー、詰んだか?コレ」

 愛車の横に移動し、花壇に腰掛け、自分の愚かさを心から呪った。管理会社の営業時間まで2時間弱。焼き立てパンを袋から取り出し頬張りながら、今回の原因について冷静に分析をしていた。

 第一に、「休みの日に自宅に一人」という特殊なシチュエーションである。休みの日は、大抵は妻が在宅している。これまでも鍵を持たずに外出したことがあったが、この場合はインターホンで妻を呼び出し開錠を頼めば済むわけである。ただ、今日は家に誰もいない、休みなのに。今まで妻に甘えていたんだと猛省した。
 第二に、スウェットである。私は自宅の鍵、研究室の鍵、研修棟の鍵、車の鍵をまとめてキークリップに束ねている。仕事でもプライベートでも、これらをパンツのベルトループに引っ掛けて外出する。そのため、家を出るときチャラチャラ音がしないと違和感を感じるので、鍵を忘れることに気づくのだ。しかしスウェットにはベルトループがないし、当然キークリップをつけることもないので、違和感なく家を出てしまった。

 「心も服装もリラックスしすぎたのが原因だな」

 と仮説を立てたところで、状況は改善しない。よく見ると、自転車置場の屋根から二階の廊下に入れそうだ。もうスパイダーマンになるしかない。警察に通報されたら、不審者ではないと免許証を見せて事情を説明しよう。ちょっと怒られるだけだろう。そもそも駐車場でスウェット姿でパン食ってる時点で既に不審者だろうし、今更どうでもいい。一年も経てば笑い話になる。

 覚悟を決め、立ち上がり自転車置場に向かおうとしたとき、エントランスの自動ドアが開いた。その瞬間は突然やってきた。私は早歩きでエントランスに向かい、外出するマダムに「おはようございます」と爽やかに挨拶をして、階段を登り、自宅に入った。
 あまりにも、あっさりとした幕切れだった。おそらく、あのマダムが洋服選びでもう少し迷っていたら、「スパイダーマンがいる」と通報されていた可能性がある。危なかった。神様は、私が人の道から外れるのを止めてくださったのだ。

 濃いめのコーヒーを淹れ、スウェットを脱ぎ洗濯機に入れ、いつものデニムに履き替え、ヘアセットをした。

 やはり適切な緊張感が一番だ。このくらいが、かえって一番いいリラックスが出来そう。