萎える「突き出し」

 先日、妻と近所の居酒屋に行った。数年前に出来たお店で、前々から気になっていたのだ。料理はもちろん、店内の雰囲気もちょっとモダンでなかなかよかった。

 運動と酔い覚ましを兼ねて、少し遠回りして散歩しながら帰る途中、私たちはお店の感想について話し合っていた。

 私「全部うまかったけど、まずあのお通しがよかった。ああいうの家で食べたい」

 妻「お通し?」

 私「うん。お通し」

 妻「どういうこと?」

 私「いや、だからあのお通しみたいなの、家で作れないかなーって」

 妻「いやだからお通しって何(半笑い)」

 ここで気付いた。「お通し」が通じないのだった。私は東日本の出身で、彼女は西日本の出身。私たちの間には、こういうことがたまにある。
 おそらく「お通し」に該当する単語があるはずだ、西日本に来て数年、飲みに出かけた時のことを思い出して、その言葉を探す。

 私「あれ、突き出しだよ、突き出し」

 妻「突き出し?で、お通しって何?」

 (以下省略)

 帰宅して、二人で語源を調べてみた。

 https://www.olive-hitomawashi.com/column/2018/08/post-2327.html

 なるほど、客の注文とは無関係に突き出されるから「突き出し」なのか、わかりやすい。
 しかし、今回いただいたソレは、確かに注文もなく勝手に出されたが、おかわりしたくなるくらい美味しい一品だった。これを「突き出し」なんて呼ぶのは申し訳ない。突き出してくれてありがとうと言いたい。
 でも、店の人側も「突き出しでーす」って言いながら出すのも変な話だ。いや、宣言しながら突き出すなよと。そういえばその店のマスターは「あてです」って言ってた気がする。実は「あて」も、こっちに来てよく耳にするようになった。違和感なく覚えたけど。

 この「突き出し」「お通し」問題、よく「法的には支払う義務はない」みたいなのを見かけることもある。私個人としては、席料やらサービス料を払うのは当たり前で、そのお礼の品であり、他の料理が届くまでの心遣いだと思っているので、カットするつもりはない。また、煮物やポテトサラダなど、シンプルだがお店の個性が出るメニューが多いのも楽しみのひとつだと思う。
 ただ、どうしても許せないお通しがある。それが「キャベツ」だ。これこそ本当に「突き出され感」を抱いてしまう。いや、別に野菜が新鮮だとか、つけるタレにこだわりがあるとかならわかる(例えば、塚田農場とかね)。許せないのが、ごま油とかドレッシングかけただけってやつ。せっかく、お店と客とのファーストコンタクト、もうちょっとこだわりの品を出してくれ、と思ってしまう。贅沢な話かもしれないが、キャベツが出てきた途端、突き返したくなる。あと、キンキンに冷えたクッタクタの切り干し大根もノーサンキューです。知覚過敏にはつらい(じゃあビールも飲むな)。

 そういうわけで、これからはキャベツの場合のみ「突き出し」と呼ぶことにしたいと思います。